超三極管結合・真空管アンプ

やきのりアンプの6BM8です。

このページのカウント数は です。(2002年6月1日以降)
最終更新日は、2002. 6. 1 です。


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事の始まり

1970年代前半、当時は真空管とトランジスタとが共存している時代で、AMワイヤレスマイクやラジオなどの高周波が絡むものと、大電力のものは真空管で作ることが多かったように記憶しています。ところで 6BM8 は代表的なAF帯の電力増幅用の安い球でしたが、AMワイヤレスマイクのAM変調段とか、ラジオの低周波出力段などで使った記憶があります。

時は流れて2002年、真空管はとても懐かしいものの、現用機器は一つも持っておらず、また、昔の回路をそのまま作っても今更・・・という感じがしていましたが、たまたまWebで発見したのが「超三極管結合真空管アンプ」です。
手作り真空管アンプのページ---情報量がとても豊富な手作りアンプの会のサイトです。
進化するパワーアンプ---超三結アンプを発明された上條さんのサイトです。

詳しい原理までは理解しませんでしたが、部品点数が少なくて再現性が良い上、音が良いという印象を受けました。さらに強く惹かれたのは、単なるノスタルジーではなく、「1990年代になってから新しく発明された回路」だということです。古いデバイスに新しい命を吹き込むような偉大な発明だと思いました。そしてさらにもう一つ、あの懐かしい6BM8一本でできるというではありませんか。あの6BM8が使えて、安く小さく手軽にできて音も良さそうと思い、作る気になりました。このような、作ろうと思ったいきさつや、次のアキバのところのシチュエーションは、次のリンクの林さんの場合とかなり共鳴するものがあります。
真空管アンプ製作エッセイ---手作りアンプの会のサイトをご覧になり、30年ぶりにアキバで部品を買い6BM8でアンプを作るという、同じ体験をなされた林さんのサイトです。


部品買出し

最近は通販でも良く揃いますが、あの秋葉原のガード下の雰囲気を30年ぶりに味わうのも趣のうちと思いましたので、アキバで買うことにしました。昔は秋葉原は近かったのですが、今は田舎に越してしまったためちょっと行ってくるという感じではありません。また、平日動けない身分である上、日曜は最近はラジオセンタとかラジオデパートのお店が閉まっている場合が多いと聞いたので、そうなると土曜日を狙うしかありません。さらに、この買出しの大きな目的は、子供も連れていってあのアキバの部品屋(PCパーツと区別するために、あえてパーツ屋とは言いません。)の雰囲気を味わうことだからです。子供(小学生)がどう感じるかはわかりませんが、あのアキバ独特の雰囲気も今となっては貴重な文化遺産かもしれません。真空管をはじめ、往年の電子工作趣味や、オーディオ・アマチュア無線などの衰退ぶりは誰の目にも明らかですが、これを子供が体験してみることは現代でも意味があることとは思います。

ただ、それにのめりこんだり、技術者の道に進んだり、果ては理系に進むことが本当に幸福に結びつくのかどうか・・・は、かなり疑問という感はあります。そういう感じを持たざるを得ないようなこんな世の中、さらには社会全体が子供に活路を開かせないような予感が少子化に拍車をかけているとすれば、この国の将来は惨憺たるものがあることでしょう。・・・子供の心配のみならず、自分の世代ですら税金だけ取られて年金とか出なそうだし。

ちょっと外れましたが、アキバ決行は、2002年3月30日土曜日となりました。何とこの日は、JE1QMS開局30周年記念日という記念すべき?日でもあったのです。(ただ、ずっとQRT中で、この日もそのあとも電波は出していませんが・・・)まずJR秋葉原駅の脇の道でチラシを貰うところから始まって、ラジオセンタ・ラジオストア、道路を渡ってラジオデパートと、このあたりを何往復もして小物部品から真空管・トランスまで揃えました。敢えてPCパーツ類には見向きもせず、真空管アンプ用部品だけ探し回ったので、十分昔の趣を堪能しました。また、子供にとっては当然真空管も他の部品も生まれて初めて見るものでしたが、それらを全部覚えたかどうかはともかく、トランスというのは重いものだということは体験させました。(単に自分が持つのが嫌なので、重いトランスは子供に持たせたというだけだが・・・)超三結アンプが有名なせいか、トランスを買うときには、ラジオセンタの東栄変成器で「セットで」と言うと、すぐに出してくれます。下手に説明するよりお店の方がわかっていらっしゃるのでその方が早いです。勿論昼食は、じゃんがらラーメンではなく、どんどんの牛丼並と卵です。(肉の万世でないところが貧乏で悲しい・・・まあ昔も吉野家の大盛り卵だったが・・・歳をとって大盛りではなく並がちょうどよくなったのもまた悲しい・・・・)部品集めと食事が無事に終わると、最後のおまけで秋月電子(信越電気商会のころは、毎週のように通ったものだが・・・)と千石通商(千石がなくて亜土電子があった頃にも良く亜土には通ったものだが・・・)に行き、ICとかを少し買出しします。これは食事前と食事後の部品の違いを子供に見せて時代の流れを感じさせるというイベント??でもあるのですが、まあ子供が覚えているのは牛丼の味だけかも・・・



部品とケースの選択

正直なところ、このアンプは電気的特性よりも趣に重点を置いて作ろうと思ったため、目に見える場所にある部品やケースの選択は重要です。とにかく真空管が良く見えること。音質も重要ですが、まずはあの6BM8のお姿を十分に眺められなくてはなりません。また、できるだけシンプルにということで、電源スイッチと電源ランプ、音量ボリウム以外は何もつけないことにしました。当然デザインは1970年代風で行きます。スイッチのデザイン、VRのつまみはいかにも昔風のもの、そして電源ランプはLEDではなくて、ネオン管です。真空管とネオン管は、セットのような印象がありますね。(定電圧放電管は高かったのでネオン管で代用した記憶もあるが、果たして定電圧作用がネオン管にあったのかどうか・・・まあ放電現象自体ツェナー効果のようなものという考え方も有るが・・・?)ケースをどうするかは結構迷いまして、結構トランスが多いので背が低いと入らないのです。しかし、最終的に決まったのがこの、やきのりの缶。これをもってこのアンプの名前は 「やきのりアンプ」となったのでした。このやきのりの缶の良い点は、何と言ってもこの色とこの光沢です。真空管とネオン管の独特の赤い発光と、この缶の落ち着いた緑。これはちょうど、日本庭園のつつじの花と緑の関係です。 日本庭園のつつじと、それが池に反射している風景。 そして、ちょっと部屋を暗くすると、真空管のヒーターの明かりがこの缶の表面の鈍い光沢面に反射する趣。これも日本庭園の花が池の水面 に映って見えるかのようです。ちょうど、青文魚の良さは、青文魚の銀色の鱗に反射した赤い金魚の赤色にあるようなものです。(昔、青文魚を飼ってたもので・・・)
さらに、工作が下手なために一部緑の塗装が剥げているところなども、より一層趣を出してい ます。(と強引に、そういうことにします・・・)



製作

やきのりの缶と部品 最初に、やきのりの缶のそばに部品を置いて、配置を考えます。真空管のソケットの向きは、入力と出力のピンと Line IN / SP OUT 端子の方向が合うように決めます・・・というのは嘘で、6BM8 がかっこよく見える方向に決める!という、全くオーディオ・マニア的でない方法で行います!まあトランスの配置は、大きさや重さでかなり制限されますので、必然的に決まりますが。(写真はクリックで拡大します。)
穴あけです。疲れますな。 そしてドリルで穴あけですが、やきのりの缶は普通のアルミシャーシより柔らかい感じでしたので割と楽でした。ただ、上に書きましたように、塗装面を下にして穴あけなどをすると塗装が剥げてしまいますので、注意が必要です。(といってもこんな失敗をするのは自分だけかも・・・)
エポキシで付けた2階建てのトランス 出力トランスは、皆様やっておられるように上下2つを結合しました。こうすると、やきのりの缶の高さぴったりになります。トランスとかケミコンとか大きい部品が多いので、結構缶の中味は窮屈になります。トランスは外に出しても良いのかもしれませんが、見た目はともかく、重心が上に上がるのと、端子が剥き出しのトランスの場合には感電には要注意です。このあたりは真空管ならではの怖さを忘れてはなりません。本当はケミコン用の袴も買ったのでそれを使っても良かったのですが、場所がないので缶の奥のほうに両面テープで張りました。また、整流用のブリッジダイオードも電源トランスに両面テープです。
2SK30-GR。Yでないから良くなかったのか??不明ですが。 さらに、FETの2SK30の基板も安易に両面テープです。このあたり、わかる人にはわかる、地獄の改修のバームクーヘンを思い出していやなことはいやなのですが、蓋をすれば忘れる?ということで安易にそうしています。2SK30の基板は音量用の2連VRのそばにテープで貼ります。(後で書きますが、最終的には2SK30は使わなくなりましたが・・・)
汚い配線ですが・・・ 半田づけは順番にやっていきますが、ほとんど配線し終わったあとで1箇所だけ忘れていた配線の場所が、缶の一番奥だったということがありがちですので注意が必要です。(これも自分だけかも・・・)特にGNDの引き回しを忘れないよう注意します。あとは一点アースの原則とかありますが、このあたりあまり詳しくはありません。まず最初に電源部だけを組んでおき、正常に電圧が出てるのを確認してからアンプ側を配線した方が安心できます。あと、ヒーター配線は交流をそのまま使っていますので、良くよじりあわせて同相雑音を抑制する必要があります。



回路図

回路は皆様のを参考にさせて頂きほとんどコピーですが、ケミコンと並列に残留電荷放電用の抵抗を入れるのと、調整のために、2SK30のところにある半固定VRと、電源トランスのタップと、カソード抵抗に注意しておくくらいでしょうか。実は最終的にはFETは使わない回路になりまして、ご覧のとおりトランジスタです。このあたりのいきさつは次に書きます。

やきのりアンプ回路図


調整

いよいよ電源オンです。これは最大の山場です。但し、スピーカーは本番用のものではなく、万一壊れてもいいように安物を買っておくほうが良いです。アキバの部品買出しの際にそれも買っておきます。(ラジオセンターの2階で買った気がしますが・・・)入力にCDプレーヤーからの Line OUT を入れて、音を聞きながら入力のVRを上げていきますが、大概歪んだ音がかすかに聞こえるだけです。その状態でFETのところにある半固定VRを回していくと、突然音が大きくなりかつきれいに聞こえてくるはずです。そこが良いポイントなのですが、同時にカソード抵抗両端電圧を測り、その値をカソード抵抗値で割ってカソード電流を計算し、最大定格の50mA以下になるようにします。35mAが理想のようですが、なかなか そのとおりにはなりません。こちらではきれいに聞こえる範囲が既にカソード電流50mA以上でしたので、電源トランスのタップを変更して+B電圧を下げました。結局なんとか38〜40mAで落ち着きました。テスターのみですとこれで調整終わりですが、オシロスコープがあるともう少し様子を見ることができます。完成後音を聞いてみると、音量が小さいときはきれいなのですが、音量を上げるとクリップしてしまい、意外とそれが早いのです。8Ωのダミーロードを作りスピーカーの代わりにつなぎ、正弦波を入力して音量を上げて波形を見てみます。やはり今一で、電圧振幅がそんなに大きくないのに波形が歪んでしまいます。三極管部の帰還抵抗の値を変えてみたり、五極管部のカソード抵抗をいじったりいろいろしましたが、やはりダメです。試しに2SK30のところのVRをたくさんまわしてカソード電流を70-80mA位流すと急に波形がきれいになったのですが、これでは球が死んでしまうのですぐに止めざるを得ません。

困った・・・ということでいろいろ調べてみると、こちらの宇多さんのページのご説明を読むと、FETは調整が厳しいらしいではないですか。ほとんどの人は運が良くてうまくいっても自分だけうまくいかないというのは頻繁にあることなので全く驚きもしませんが、素直に回路変更をすることにしました。
結局、超三結の発明者の上條さんの回路(図2)を頂いてきました。FETをやめてTrに置き換え、かつ部品点数と配線変更箇所をできるだけ減らすという観点で選びました。その結果が上の回路図です。ほとんどの皆さんは2SK30を使った回路で立派に成功なさっていますが、たまたま私のように運が悪いのか、うまく行かなくて、同じように音量が小さいのに歪むという症状が出てしまった方にはこの回路をお勧めします。Trも 2SC1815 ですし、FETを使った回路よりもさらに安くできること請け合いです。なお、33Ωの抵抗が手持ちにない場合は100Ωを3つ並列につなげばOKです。私の場合も急な回路変更で33Ωなどなかったのでそうやっています。



試聴

試聴というよりフォトギャラリーですが、完成したやきのりアンプの写真をいくつか置きます。(クリックで拡大します。)
やきのり全景 やきのり全景 6BM8
完成したやきのりアンプ全景。上面の左の方には、しっかりと穴あけ時に間違ってつけた傷が見えます。木が写っている写真は、次のコーナーで作りますバックロードホーン・スピーカーの脇においてみたところです。
やきのり全景 6BM8
周りを暗くして、真空管のヒーターの光がよく見えるようにしました。
都電
2本の 6BM8 の間に、Nゲージの都電を置きました。これは70年代ではなくて60年代ものですが、当時の都電を知っている方にとってはなかなかいい絵ではないでしょうか。
実際の試聴については、次のバックロードホーン・スピーカーのコーナーに続きます。

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